かつて関東平野一円に拡がる大きな國があった。現在の東京23区、埼玉県ほぼ全域、神奈川県の一部をふくむ「武蔵(むさし)の國」である。その北西の突き当たりが、秩父だ。
東京池袋から電車で約1時間半。駅に着くと、街を見下ろすように武甲山(ぶこうさん)がそびえている。石灰岩の採掘で大きく削られてはいるが、朝もやのシルエットから霊山の気韻が立ち昇る。
秩父は奈良時代から養蚕が始まり、大正から昭和にかけては「銘仙(めいせん)」の一大産地となった。「銘仙」とは絣(かすり)の一種で、タテ糸にプリントし、仮織りのヨコ糸をほぐしながら織っていくので「ほぐし織」とも呼ばれる。最盛期は800軒以上の織屋さんを数え、人口の七割が繊維関係だったという。しかし現在銘仙を織っている人は、片手で数えられるくらいだという。きもの文化と共に、大切な工藝が失われつつある。
私たちが訪ねた新啓(あらけい)織物の新井教央さんは、「銘仙」の伝統工芸士だ。前回ご紹介した「足利銘仙」ではもともと幾何学柄が多いが、「秩父銘仙」は花や植物など自然界のモチーフが多い。また秩父ではシルクの光沢感を生かし、タテとヨコの糸色を変えて玉虫色に織る。するとドレープ(ひだ)の動きで、色が美しく変化する。
さらに今回は新井さんの提案で、プリントしたタテ糸の半数を8cmずらして織ってみた。紅葉したドウダンツツジの絵柄が、二重露光のように透けて重なり合う。
「シンプルなのに複雑な表現、それが秩父銘仙の魅力です。」
と新井さんは楽しそうに語る。かつて分業だった仕事を、なんとか家族だけで続けている。その原動力は、もっとおもしろいものを作りたいというピュアな探究心だ。
ふと神棚を見ると、不思議なお札が貼ってある。狼のお札だった。新井さんに尋ねると「ええ、オオカミ信仰がいまもあるんですよ。」と教えてくれた。かつて日本では、狼は農作物を食い荒らす猪や鹿を食べてくれる益獣だった。「お犬さま」と呼ばれ、山の神様の使いとされてきた。深い森の奥から聞こえる遠吠えに、人々は神秘的な力を信じたのだろう。だが日本オオカミは百年ほど前に絶滅してしまった。
街の背後には、秩父連山が暗い海原のように広がっている。その奥秩父の山中に、三峯神社がある。入り口には鋭い牙をむいた狼の石像が、聖域を守っている。境内は山気に満ち、心清らかにしてくれる。
この土地には太古から続く信仰が色濃く残っている。いや、それは特定の「信仰」というより、当たり前にある暮らしの「信心」というものだろう。いたるところに山の神様の小さな祠があり、観音巡礼の三十四ヶ所の札所があり、一年中どこかで神事やお祭りが行われていて、太鼓や舞いなどの民衆芸能も盛んだ。武蔵の國の最果てに、森を敬い、山の神様や狼に手をあわす人々が今も残っている。現代の衣食住から失われてしまった祈りが、ここではまだ根を張っている。
「祈りによって、人間は平(たいら)でいられる。それは不安定な心を支えてくれると思うんです。」と新井さんはもの静かに語る。その手ひらから生み出された新しい水は、古(いにしえ)の泉から今も湧いている。
職種:店舗販売 / 営業 / 生産管理 / パタンナー / デザイナー
正社員登用、給与は経験により相談。月20万円以上。
年齢性別不問。
厚生年金、健康保険、雇用保険等完備。交通費支給、賞与。
ご希望の方は、メールにて履歴書と職務経歴書をお送り下さい。
通過者のみ面接の返信をいたします。なお募集の職種は時期によって異なる場合があるのでお問い合わせください。
*学生のインターンは随時可能ですので、希望者は面接いたします。
送信先メールアドレス:matohu@lewsten.com
◇ matohuの理念
「日本の美意識が通底する新しい服の創造」をコンセプトに文化や歴史を大切にしながら、現代人の心に響く魅力ある「デザイン」を生み出すこと。それを深い「言葉」で表現し、共感者の輪を拡げて行く「場」を作って行くこと。
この3つを通して、多様で心豊かな世界をともに作り上げることがmatohuのプロジェクトであり、理念です。
◇ 仕事のやりがいと人間的成長
まかされた仕事を自分の創意で工夫していける環境です。1Fはショップ、2Fはアトリエになっており、デザイナーと直接話しながらアイデアを実現していけます。また文化、歴史など幅広い知識を学ぶ機会も多く大人の教養と礼儀が身につき、人間的にも成長できます。
人の心に彩りを添えるデザインを生活のなかに!を合い言葉にこれから世界に向けて発信するmatohuのスタッフを募集します。